ボルトエンジニア(株)

㈱日本プララド技術部

ボルトはなぜ
共回りするのか︖(7)

ステンレスボルトと締付け軸力

摩擦係数が大きい!

★摩擦係数が大きい!

ステンレスボルトのボルト締付け作業では、「ボルトの共回り」現象が殆ど必ずといってよい程起きます。炭素鋼のボルトよりも、オネジとメネジ間の摩擦係数が1.8倍程度大きい為です。摩擦係数が大きい事はナットを締めた時に、ボルトを連れ回そうとする力(トルク)が1.8倍大きくなるからです。

連れ回り防止の為に「つれゼロワッシャー」の使用をお勧めしますが、使用する時は「ステンレスボルト専用」と指定して使って下さい。ステンレスボルト用は、ワッシャーの材質がSUS420J2のステンレス鋼で、焼入れ硬度が高く外形も炭素鋼のボルトに対するものより大きめになっています。

スレンレスのボルトやナット(=SUS304や相当材質)は、食品工場・化学工場・水中や海水中などで多数使用されます。或いは耐熱ボルトとして高温下でも使用されます。けれども通常の炭素鋼(S35CやSCM435)のボルトやナットと比べて、意外と知られていない問題があります: 同じトルクで締め付けてもボルト軸力が出ない事です。

悩ましいのは、使用する潤滑油を上質なもの(例えば、モリブデン含有系統のものなど)を使っても余り効き目がありません。当社実験室で行った締付けテストでは、M16x100Nmで締めつけた場合、SCM435ボルト・ナットであれば平均で68kNの軸力を得られますが、同条件のステンレスボルト・ナットの場合平均で22kNとなり、軸力として1/3程度しか締まりません。

軸力が出ない!

★軸力が出ない!

さらに摩擦係数を測定した実験でもステンレス同士のM16ボルト・ナットの場合は、同サイズSCM435同士のボルト・ナットに比べて摩擦係数が1.8倍高くなります。この現象は注意すべきで、ステンレスボルトM30(SUS304)18本の締付け実験でも確かめており、この場合は(モリコート塗布した条件で)1.7~2.1倍となりました。炭素鋼ボルトに比べてステンレス鋼ボルトの高い摩擦係数が結果として、軸力が出ない理由なのです。

ステンレスのボルトが「締まり難い」事を意味し、締まり難い為に軸力を得ようと高トルクで締めつけ勝ちですが、こうなるとネジ部の「焼き付き」(カジリ・おねじとめねじの溶着)現象を起し勝ちです。ステンレスボルトには高い摩擦係数・トルクと軸力の相関性の得にくい事などでトルク・軸力管理が非常に難しく、ボルト作業において細心な注意が必要です。

以上

ステンレスボルトの締付けについて注意
★締付け実験

(株)日本プララド技術部 2025.08.29

★締付け実験条件
・ボルト:ステンレス焼入れボルト M16並目
・ナット:同上
・ボルトはそれぞれ3本づつを使って測定した。ステンレスボルトの時は床もステンSUS304。

潤滑状態 締付け
トルク
Nm
発生軸力kN(A)
ステンレスボルト
床もステンレス
比較kN(B)
SCM435ボルト
S45Cナット
床は鉄SS400
ステンレス
ボルトの
軸力の低さ
A/B
①機械油塗布 80 32.4 57 57%
②フッ素スプレー 80 58.1
③黒色モリコート塗布 80 59.6 72.2 83%
  • 1ステンレスボルトは機械油だけで何も対策しなければ、鋼製ボルトの軸力の57%だが、モリコート塗布などの対策を取れば83%まで回復するが、それでも鋼製ボルトの83%程度でしかない。
  • 2この傾向は、M30(SUS304)でも確かめられており、ステンレス材の摩擦係数が高い為で、ステンレスボルトの締付けには注意が必要です。
  • 3更に注意すべきは、ステンレスボルトは締め付け時に「ねじ面の焼き付き」(=カジリ)現象を非常に起しやすい特性があります。徹底的に焼き付かなくても、その前段階でネジ面が互いに強く密着する現象が起きます。手動レンチなら締付けながら「けつまずくような感触」※を受けるので感知しやすいですが、動力式レンチの時は感知出来ず注意が必要です。この現象が起き始めた時、摩擦係数は極端に上昇しています。
  • 4上の実験では※現象を起さないように非常にゆっくりした速度で締めた理想的な締付け条件です。実際には※現象のために、ステンレスボルトの軸力は上の実験値よりも「更に低い」ものと考えるべきです。
  • 5ボルト締付けの作業現場だけでなく、ステンレスボルトを使う設計者は軸力の低下を考慮した余裕のある設計が、必ず必要です。
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